小学校の先生が放課後、教室にひとり残っている。

卒業生が会いにきた。

 よう、久しぶり。よく会いに来てくれたな。

・・・。

そりゃ覚えてるさ、先生が初めてもった担任クラスの生徒だからな。連絡をくれたときは、本当に嬉しかったよ。
どうしたんだ? 急に。

・・・もうあれから8年か。
(急に生徒が謝ってきた)おいおいおい、ちょっとなんだよ急に。
もう、8年だぞ、さすがに先生も大丈夫だよ。

・・・あぁ、本当に。
あの頃の先生はな、理想ばっかり追いかけてた。
初めて教師として子どもたちの前に立って、初めてクラスの担任を持たせてもらって。
しかも6年生という高橋たちにとっても大事な1年間を、どれだけ思い出に残る時間にできるだろうって、な。

(また謝られた)もう、だから謝んなって。
そりゃな、お前たちはヤンチャだったよ、あの頃の先生には手に負えなかった。
どうしようも無かった。謝らなければいけないのは、先生の方だよ。

・・・いや、だってな、途中で放り出したんだ。
教師という仕事を。どうしても教壇に立てなくなってしまった。
怖かったんだよ、高橋とあのメンバーが。
でもな、今は感謝してる。こうやって教師にも復帰しているのがその証拠だよ。・・・。

先生の話、聞いてくれるか。

・・・。

ありがと。
先生な、学校に来れなくなってから、いわゆる引きこもりみたいな生活が続いたんだ。
1年間どっぷりと。でな、やっと抜け出せて近くの公園まで通えるようになった。
そこで出会ったんだよ、同じように空を見上げてボンヤリしている女性に。
毎日のように同じ場所にいたんだ。

・・・あぁ、そりゃな、時々は先生が行かない日もあれば彼女がきていない日もあったさ。
でも、特に何の会話も無かった。
それからまた、1年くらい経った頃かな。
やっとなんとなく距離が近づいて、ポツリポツリとお互いのことを話すようになった。
で、同じような気持ちを抱えていたことを知ったんだ。
なんだかホッとした。自分だけじゃ無かったんだって。

・・・あぁ。
自分だけが、こんなに惨めで情けない人間なんだって思い込んでいたんだって気づいたんだよ。
それから少しずつ少しずつ、自分を取り戻すことができた気がして。
こんな経験をした自分だからこそ、できることがあるんじゃないかって、もう一度教師を目指すことに決めたんだ。
すぐにはうまくいかなくて、結局それからまた3年くらいかかってな。
ようやく教師として再チャレンジを始めて3年目。

あの頃から比べたら、子どもたちも変わった気がするけれど、先生にしかわからないこともあるんじゃないかと思う。
先生がいつも正しいんだというわけじゃ無いこと。
先生だって迷って悩んで、苦しんでいるんだってことを、今は素直に伝えてるよ。
そうすることで、救われる子どももいるんじゃ無いかなと思ってな。
先生、高橋のことわかってやれなくて、本当にごめんな。
改めて、謝らせてくれ。
本当に申し訳なかった。

(高橋も謝っている)・・・。


なんだ、謝り大会か。(笑う)
今日は来てくれて、ありがとな。
高橋、今は大学か?・・・。
そっか就職したんだ。
・・・で、結婚? そうか、おめでとう。・・・え? 今から? プロポーズすんのか?

へぇ、それで心に引っかかっていたことを・・・。
ありがとな、先生もこの話を高橋に言えてなんだかスッキリしたよ。

・・・え? 先生か? いや、まだ・・・。

そっか、そうだ、そうだよな。
先生もガンバってみるか。うん、プロポーズだな。
よし! よし・・・。よし。やってみるか。

〜完〜

※こちらのモノローグは、自由にご利用いただいても構いません。動画アップなどの際には、#森中純子と入れてください。また、ご一報いただければ拝見させていただきますので、よろしくお願いします。