〜取り調べ室、女が警察の取り調べを受けている。〜
はい、3年前です。
ある日電話がかかってきました。
「俺、おれ!母さん大変なことになった」って。
彼は、会社で大きな失敗をしたようでした。
一刻も早くお金を用意しなければならないって、とても慌てた様子だったんです。
え?
・・・。
違います!
わたしには、この世に息子なんておりません。
はい。ですから、すぐにわかったんです。
彼が間違い電話をしていることに。
でも、彼の切羽詰まった声を聞いていると、なんとかしてあげたいという気持ちを抑えられなかったんです。
もう少し、この子と話をしていたい。
そこで、私は考えました。
私は、この子の母親の振りをしようと。
・・・。
ええ、私は彼にとても酷いことをしてしまいました。
幸い、お金を取りに来るのは友人だということでしたので、私が母親では無いということはバレずに済んだのです。
あの子の役に立ったのなら、本望です。
それから?
(少し微笑んで)あの子、そそっかしい子でね、ちょくちょく失敗するんです。
その度に、諭したり励ましたり。
時には愚痴を聞きながら。
1時間ほどあの子が喋りっぱなし・・・なんてこともあったんですよ。
(「その度にお金を?」)
ええ。もちろん。
その度に、あの子の友人という人が訪ねてきました。
でもね、ある時気づいたんです。
その友人が、あの子だったって。
だってね、声が一緒なんですもんバレるじゃない?
それからは、あの子に会いたくて会いたくて。
最初は、私がお母さんでは無いことを知ってビックリしたでしょうね。(笑う)
でもね。
私がお母さんでは無いことに気づいたのに、頼ってくれているんだということが嬉しくて。
あの子が・・・、うちの本当の息子が、姿を変えて会いにきてくれているんだと・・・、(涙ながらに)あの子がやっと本心を話してくれているんだと、そう思って嬉しかったんです。
ですから。
ですから、私は騙されてなんていません。
ただ、あの子との時間を大切にしていた。
それだけです。
〜完〜
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