乾杯

　ご機嫌に女が帰ってくる。

　ケージにいる猫に対して

ただいまニャ〜。ただいニャ〜。

（ニャ〜）

よしよし、今日も元気にしてたか？　ちょっと帰り遅くなってごめんニャなさい。

ん、グフ。ぐふふ。（笑いが堪えきれない）

ちょっと待っててね〜（冷蔵庫からミルクを取り出して猫に入れてやる）

さ、乾杯しよ！（冷蔵庫から一緒に出してきたか缶ビールを開ける）

よし！　乾杯〜。（ニャ〜）

（一口飲んで）ハ〜。うまいっ！！　

（急にかしこまって、猫の前で正座して）え〜。私、ご報告があります。

私、山本はるか、４０歳。ついに、ついに！　ジャ〜ん！！（婚約指輪をはめた左手薬指を猫に見せる）

結婚いたしますっ！！！！　

（ニャ〜）　おぉ、そうかそうかタスケ（猫の名）も喜んでくれるか。

ありがとう。

いや〜、来ました。ついに来ましたよ、この瞬間。

（プルル〜、電話がかかってくる）

（急にお姉さんっぽく）はい、もしもし。

あ、うん。大丈夫、ちゃんと帰ったよ、もう〜心配いらないわよ、いくつだと思ってんの？　え？　あ、うん。
ありがとう。・・・明日も早いんでしょ。うん、わかったモーニングコールするね。
うん。じゃ、おやすみ。（電話を切る）

ひゃあ〜、電話だよ、電話。心配なんだって、私のことが。私、女性だから、だって、可愛いいんだからだって、やだ〜、もう〜。（ニャ〜）

（おつまみ食べながら、ビールを一口）

諦めかけたこともあったよ、こっちから逃げようとしたこともあった。うん。

だって、怖いもんね、この年で捨てられちゃったりしたら、さ、それこそ後が無いもん。

振られるくらいなら、いっそこっちからって。ね。

そう、相手は年下だしね。そう、結構下だしね。そう、下なんだよ、まだまだこれからなんだよ。
３３歳、仕事も今から！ってとこじゃん。

それなのに、私でいいのか？　こんなオバサン相手にしてていいのか？　
子ども、・・・生むのか？　生んじゃうのか？　え？　え〜？　

大丈夫か私、（指輪を見ながら）これ受け取っちゃって。

（ニャ、ニャ〜）

うん？　タスケ、応援してくれる？

（ニャ〜）

そっか、ありがと。

大丈夫だよね、もうね、受け取っちゃったもんね。

可愛いって言ってたもんね。

子どもなんて、自然の成り行きだよね。どうなるかなんて、誰にもわかんないもんね。
いいよね、いいや、いいっ！！！

よし〜。も一度、カンパ~イ♪

〜完〜

※こちらのモノローグは、自由にご利用いただいても構いません。動画アップなどの際には、＃森中純子と入れてください。また、ご一報いただければ拝見させていただきますので、よろしくお願いします。